2013年05月04日

スダーン&東響、東響コーラスのモーツァルト

4月20日(土) 18時 サントリーホール
4月21日(日) 14時 ミューザ川崎

モーツァルト:ミサ曲ハ長調 K.317「戴冠ミサ」
同:レクイエム ニ短調 K.626(バイヤー版)
アンコール モーツァルト:アヴェ・ヴェルム・コルプス K.618

指揮:ユベール・スダーン
ソプラノ:サビーナ・フォン・ヴァルター
メゾ・ソプラノ:ステファニー・イラーニ
テノール:福井敬
バス:パトリック・シンパー
合唱:東響コーラス(合唱指揮:安藤常光)
管弦楽:東京交響楽団

 4月の東京交響楽団は、音楽監督ユベール・スダーンが登場。オーケストラ以上に驚異的なスケジュールをこなしているのは、東響コーラスである。3月下旬にマーラーの『嘆きの歌』、4月7日(日)にミューザ川崎の再オープンのコンサートでブルックナーの『テ・デウム』を歌って、その2週間後に、今度はモーツァルトを2曲いっぺんに歌うプログラム。全メンバーが全ての公演に出演しているわけではないとしても、アマチュア・コーラスとしてはよくぞここまでやってくれると快哉を叫びたい。「戴冠ミサ」は、美しい旋律に溢れる曲だけれど、演奏会の後半の言わば「メイン」としては短いために、日本のオーケストラの演奏会では、そう頻繁に聴けるわけではない。4月の公演プログラム中の船木篤也氏との対談の中でスダーン自身も「震災後、サントリーホールを満席にするということはとても困難なことですから。」と語っている通り、「戴冠ミサ」だけでは大勢の聴衆を集めることが難しいだろう。東響コーラスに、既に何度も歌っているとは言え、人気曲『レクイエム』と一緒に歌いこなしてしまう安定した実力(メンバーは2曲とも暗譜で歌う)とスダーンとの信頼関係があってこそ、「戴冠ミサ」で優れたソリストを招いて充実した公演が出来るのだと感じる。
 
 さて、その「戴冠ミサ」。キリエもグローリアもハ音から始まる明るさが耳に心地よい。今回の合唱は総勢90名(女声が約25名ずつ、男声が約20名ずつ)という編成だが、実によく音程やディクションが揃っていて、ミサの典礼文の意味がしっかりと伝わって来る。オーケストラは、トランペットがナチュラル、ティンパニーが革でペダルのない古風なスタイルの楽器を使用して演奏していた。現代楽器のオーケストラでも、トランペットだけ変えると、本当に大きく響きが変わる。2月に来日したフィルハーモニア管もエサ・ペッカ・サロネンとのベートーヴェンでこの方法を選択して大きな効果をあげていたけれど、宗教曲の場合、ハ長調やニ長調というトランペットの入る調性を曲の冒頭ではっきりと示すし、調性に安定感のある曲想が続くのが常だから、交響曲以上に効果的だ。
 第3章クレドは、聖体拝領の場面で合唱から独唱陣のアンサンブルに切り替わる瞬間の間合いが良く、モーツァルトが意図した宗教曲の様式の中での劇的な音楽作りが十分に実現されていた。第4章サンクトゥスと第5章ベネディクトゥスは、合唱による「いと高きところにホザンナ」という共通の結びによって一体感が生み出され、この作品全体の印象をも強固なものにしてくれている。第6章アニュス・デイは、何よりもソプラノのサビーナ・フォン・ヴァルターの声が素晴らしい。「miserere nobis」というテクストを無垢な祈りとして絶妙に客席に届けてくれた。そして合唱の「dona nobis pacem」も、明るくすがすがしかった。
 後半の『レクイエム』(バイヤー版)は、冒頭の「入祭唱」から早めのテンポだったが、『戴冠ミサ』にはなかった息の長いフレーズ感がしっかりと表現されていた。『戴冠ミサ』が1779年、『レクイエム』は死の年の1791年で、両者には12年の開きがあるが、それが実感として味わえるのも、同じモーツァルトを2曲まとめて演奏してくれたからだ。セクエンツィアの第3章「Rex Tremendae」で、スダーンは、冒頭の「Rex」を母音を延ばさず一飲みで歯切れ良く歌わせていた。この章の結び近くの「Salva me」の部分は弱音で合唱の音程が顕わになる箇所だが、東響コーラスは各パートの音程のまとまりが良く(特に3回目の女声)、繊細で「我を救い給え」というテクストの意味もしっかりと伝わる歌唱に仕上がっていて感心した。後半も、ジュスマイヤー版だと補筆されたオーケストレーションにいつも違和感を抱くのだが、今回の演奏はそうしたぎこちなさをほとんど感じなかった。例えば「サンクトゥス」。弦のアーティキュレーションが異なるためか、速めのテンポでフレーズが途切れない感じがよく表現されていた。全曲を通して密度の濃い『レクイエム』を堪能。なお、『レクイエム』ではバセット・ホルンを使用していた。
 翌日の21日も、再開後のミューザ川崎に初めて足を運んだ。あいにく東海道線の工事運休があり、遅刻して『戴冠ミサ』前半を聴き損なったが、前日にも楽しんだ演奏内容のみならず、例えばバセット・ホルンの音色がサントリーホールで聴いた前日よりも際立って聞こえるなど、ホールの響きの良さも楽しむことが出来た。
 スダーンが音楽監督の任期中に東響コーラスと共演するのはこれが最後だ。次期音楽監督のノットは古典よりは近現代に力点を置いたレパートリーの持ち主なので、私は、今後もスダーンと東響コーラスとの共演に期待している。
posted by 英楽館主 at 11:04| 東京 ☀| Comment(1) | TrackBack(0) | コンサートつれづれ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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